【現代文】読解練習問題/論説文 #1

論説文
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大学受験向けの、現代文練習問題です。手持ちのテキストをやり尽くしてしまった方や、とにかく問題演習をこなしたい方におすすめです。

  • ジャンル:論説文
  • 難易度:基礎~標準程度
  • 出題形式:選択式、記述式

問題、解答、解説の順に記載しています。

ページの最後に、印刷してすぐに使えるプリント(pdfリンク)があります。

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問題

次の文章を読み、後の問いに答えよ。

かつて、情報は「残す」こと自体に多大なコストと労力を要するものであった。石碑に文字を刻み、羊皮紙にペンを走らせる時代、記録とは選ばれた人間による特権的な行為であり、何を残し何を捨てるかという選別こそが、知性の働きそのものであったと言える。しかし、デジタル技術の普及はこの前提を根底から覆した。現代において、情報はもはや「意識的に残すもの」ではなく、ネットワークの海に「勝手に蓄積されていくもの」へと変貌を遂げたのである。

このヘンカは、私たちの「忘却」のあり方に決定的な影響を及ぼしている。本来、人間の脳にとって忘却とは、単なる機能不全ではなく、健全な精神を維持するための適応戦略であった。膨大な外部刺激の中から重要なものだけを抽出し、それ以外をあえて捨て去ることで、私たちは複雑な世界をガイネン化し、意味を付与することができたのだ。ところが、外部記憶装置としてのデジタル・ストレージが無限に近い容量を持つようになったことで、私たちは「忘れる」という権利を事実上剥奪されてしまった。

かつての忘却は、時間の経過とともに記憶が薄れていくという自然なプロセスであった。しかし、デジタル化された過去は、検索一つで当時の鮮明さを保ったまま眼前に引き出される。このような事態は、一見すると情報の保存という恩恵に見えるが、実は人間の思考を過去という重力に縛り付けるリスクを孕んでいる。

フランスの哲学者ベルクソンは、記憶を「純粋記憶」と「習慣記憶」に分けたが、現代のデジタル記憶はそのどちらとも異なる、いわば「凍結された記録」である。それは、個人の内面で熟成され、現在の自分に合わせて再解釈される余地を持たない。固定された過去のデータが、現在の自己決定を規定し、時にはSNS上の過去の発言が数年後に掘り起こされて現在の自分を裁く「デジタル・タトゥー」として機能する。

我々は、情報を共有し、いつでもアクセスできる便利さを手に入れた代償として、コウカイを伴う過去や、未熟だった自己を「忘れることで乗り越える」という救済を失いつつあるのではないか。情報の非対称性が解消される一方で、自己の歴史が常に「現在進行形」でさらされ続けるストレスは、現代人の精神構造を静かに変質させている。

知性とは、単に情報を蓄積することではない。むしろ、無数の情報の中からノイズを削ぎ落とし、本質を抽出する過程にこそ宿るものである。デジタル万能主義の時代にあって、我々に今求められているのは、いかにして「賢く忘れるか」という技術、すなわち「積極的忘却」の作法を再構築することに他ならない。それは、外部に丸投げされた記憶を再び自己の手に取り戻し、豊かなソウゾウ力を育むための第一歩となるはずだ。

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  1. 文中の傍線部A~Dのカタカナを漢字に直しなさい。
  2. 傍線部①「このような事態は、一見すると情報の保存という恩恵に見えるが、実は人間の思考を過去という重力に縛り付けるリスクを孕んでいる」とあるが、どういうことか。その説明として最も適当なものを次から選びなさい。
    • デジタル技術によって過去の失敗が消えなくなることで、人々が未来への挑戦を諦めてしまうということ。
    • 記憶が劣化せずに保存され続けるため、過去の出来事を現在の視点で柔軟に解釈し直すことが困難になるということ。
    • 情報の検索性が向上した結果、自分の頭で考えるよりも過去のデータに頼る安易な思考が定着してしまうということ。
    • 過去の膨大なデータが常に更新されるため、現代人は新しい知識を習得する意欲を失っているということ。
  3. 文中の傍線部X・Yの語句と反対の意味を持つ語句の組み合わせとして、最も適当なものを次から選びなさい。
    • X:流動 Y:挿入
    • X:変容 Y:混合
    • X:流動 Y:注入
    • X:固定 Y:拡散
  4. 傍線部②「情報の非対称性」という言葉の、本文中における意味として最も適当なものを次から選びなさい。
    • 特定の人物だけが情報を独占し、他者がそれを知ることができない状態。
    • 情報の送り手と受け手の間で、持っている知識の量や質に格差があること。
    • デジタル上の情報と、現実世界で実際に起きている事象が一致しないこと。
    • 過去の情報が失われてしまい、現在と比較検討することが不可能な状態。
  5. 筆者が述べる「デジタル記憶」の性質について、本文の内容と合致するものはどれか。次から選びなさい。
    • 人間の脳と同様に、時間の経過とともに重要な情報だけを抽出する機能を持っている。
    • 個人の内面で熟成されることで、過去の自分を肯定するための材料となる。
    • 検索によっていつでも再現可能であるがゆえに、現在の自分を拘束する力を持つ。
    • 羊皮紙や石碑に刻まれた記録よりも、人々に知的な選別を促す効果がある。
  6. 筆者が最終段落で主張している「積極的忘却」とはどのようなことか。40字以内で説明しなさい。
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解答

  1. A 変化  B 概念  C 後悔  D 創造
  2. (例)外部に蓄積された膨大な情報から本質を抽出し、主体的に記憶を制御する態度のこと。(39字)
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解説

  1. Dは文脈から推測し、「想像」ではなく「創造」を正解とする。
  2. 傍線部直後の「現在の自分に合わせて再解釈される余地を持たない」「固定された過去のデータ」という記述と合致するものを選ぶ。
  3. X「固定」の対義語は「流動」。Y「抽出(抜き出す)」の対義語は「注入(流し込む)」が適当。
  4. 一般的な経済用語としての意味に加え、本文では「誰もが情報にアクセスできるようになった(=非対称性が解消された)」という文脈で使われている。
  5. デジタル記憶が「凍結された記録」として、現在の自己決定を規定したり裁いたりする側面を述べている箇所を反映。
  6. 最終段落の内容を簡潔に要約。
  7. 筆者は「忘却の作法を再構築すべき」とは言っているが、デジタル技術自体の否定や、石碑などのアナログ媒体に戻れとは言っていない。
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